迷惑かもしれない、そう思いつつも善意と好奇心に押されてやってきてしまった。手にはスザクのノート。今日の授業で課題が出された教科のものだったが軍への移動に追われるスザクは参考書だけ持って肝心のノートを忘れてしまっていた。(あーあスザクの馬鹿)どうせ軍の仕事も終わってクタクタになって、それでも学業をおろそかにしないあいつは課題をこなそうとカバンを開けるだろう。そして忘れ物をしたことに気づく。
(……くそっ)
がっかりしたスザクの顔を想像したらどうにも我慢が出来なかった。
しかしアポイントも無しに尋ねてはスザクの立場も悪くなるだろうと入り口でうろうろしているしかできなかった。そこに声をかけてくれる人が居たことは幸運だったとしか言いようが無いだろう。丁寧に応接室のような場所へ通され紅茶を振舞われる。勝手にやってきてこんな持て成しを受けるのはどうも居心地が悪くて落ち着かない。そんな様子に優しい人がクスリと笑った。それに少し許されたような気がしてもう一度頭を下げる。
「突然申し訳ありません、こんな」
「いいのよ、きにしないで?」
もうすぐスザク君も来るから、そう微笑んでくれた女性は確かセシル、と言った。そうだスザクがいつか話していた技術部のとても優しい女性。「でもブルーベリーが…」とブツブツ言っていた(意味はよく分からない)のが気になるが、スザクが良い人、と称する人に間違いは無い。あいつはそういう人間を見る目がとても良いのだ。スザクの傍に良い人が居てくれてよかった。あいつのことだから軍でも上手に人間関係は気づいているのだろうと思っていたけれど如何せん差別の根は深い。こんな偏見も無い優しい人がスザクの世界に居てくれて本当によかった。
そんなことを考えて訳も無く穏やかな気持ちになる。とても気分が良い。自然と表情も和らいでいたようで彼女もニコニコと笑っていた。
「スザク君からね、よく学校の話を聞くのよ。昔の友達に再会できたって嬉しそうに、ね、それってもしかして貴方かしら?」
「ええ。確かに彼とは昔からの友人ですよ」
和やかな空気に唆されてついつい余計なことまで話してしまいそうになるのが少し怖い。自分を自分で戒めて笑顔で無難な答えを返す。それを気にした風も無く彼女は「そうなの、よかったわね」とまるで自分の子の事の様に喜んでいる。良い人だ。ちょっとびっくりするぐらい良い人だ。