「悩むのが悪いとは思いませんけどね、あんたのそれは凄っごい、ムカつきます。」


唐突に吐かれた言葉に顔を上げればまるで汚い物を見るような目で自分を見下ろす後輩の顔が見えた。その明らかな侮蔑の表情にも今は怒りすら感じない。何も言わずにまた俯いたアスランにシンは面白くなさそうに溜息を吐いてアスランの座る隣にある自販機の前に立つ。
アスランが今座っているのは休憩室のソファーだった。シンは飲み物を買いに来て偶然アスランの姿を見つけたのだろう。今休憩室にはシンとアスラン以外誰も居ない。病人のような顔をしたアスランに遠慮して皆どこかへ行ってしまった。(その後何回か事情を知らない末端の兵が飲み物を買おうとやって来てアスランの姿に気付き慌てて出て行った)ここに居ては迷惑だとわかっていたけれど動く気にはなれない。全てに心の中で謝罪した。
けれどもシンは何の躊躇も無く声を掛けた。それは決して優しい部類の言葉ではなくむしろ突き放すように冷たいものだったけれどヘタに慰められるよりずっといい。
ピっと小さな電子音の後にガコンと金属のぶつかる音がしてドリンクが吐き出される。それを取り出してシンは出口に足を向けた。また一人になるのだと思うと無性に彼を引き止めたくなって思わず声を掛ける。「どうして悩むのは悪くないのに俺のは腹が立つんだ?」シンは一瞬きょとんとした幼い表情になる。それは出会ったばかりの頃よくアスランに向けられていた彼の純粋な部分だ。けれどそれも懐かしさを感じる前にいつも様な顔に戻る。紅い瞳に何の表情も感じさせないままシンは告げた。


「アンタの悩みは救いが無いから」


アスランがその言葉を理解する前にシンは休憩室を出て行った。彼の言う「救い」とは何を指すのだろうか。判らない。仮に判ったとしてもきっと自分には理解が出来ないのだろう、確信めいた直感に漠然と離れてしまった距離を感じた。











END




【忘却の祈り】


2005.11.25-Copyright (C)Baby Crash