酷くゆっくりと食事をするものだから見ていて少し焦れる。昼休みも残り十五分と微妙な時間を迎えていて陣取った他人の席もそろそろ返さなければならない。早く食べろよ、とか、もっと効率よく。浮かんで消える言葉に一層気持ちが募って知らずに足が貧乏ゆすりを始めていた。
自分が食べているときは気にならない箸の円滑さが自分の食事が終わって特にすることもなくなると気になって仕方ない。自分でもおかしいくらい鬼気迫った顔で凝視しているとソレに気付いた彼が箸を口に咥えたままニコリと笑った。
「どうしたの?」
「……いいえ」
あれだけ凝視しておいてこの返事も無いだろうと思ったけれども彼は何も言わない。ふうん、と頷いてまた緩やかで酷くイラつかせる食事を始めた。もしかしたら全て分っているのかもしれない。
それなら。
「…食べるの遅いですね」
「よく咬んだ方が健康に良いんだってさ。テレビで見たんだ」
シンにとっては相当頑張ったつもりの、返り討ちに合うんじゃないかっていうドキドキの言葉も軽くかわしてキラは穏やかに微笑んで食事を続ける。彼がこんなに穏やかなのは珍しい。普段の彼は人当たりのいい善人に見えるけれども一枚皮をはいでしまえばソコには酷く冷たい瞳がある。こんな風に目を細めて穏やかに笑うことは本当に、少ない。ソレは最近知った。今日は何がそんなに嬉しいのだろうか。一人で食べずに済んだ昼飯が?そんなに?詰まるところシンは生贄だった。昼休みに購買へパンを買いに来ていたシンは気付けばキラと昼を共にすることになっていた。誘い文句は「アスラン居ないから一緒にお昼食べて」の一声。拒否権は勿論なかった。キラは食事を一人で取ることが我慢できないほど嫌らしい。群れる女子でもあるまいし飯くらい、小声で言ったソレはしっかり拾われて「だって一人で弁当を広げている男子も結構惨めに見えるけれど?」どうよ?と首を傾げられたらもう何も言えず今に至る。
だいたいキラが声を掛ければ一緒に昼を食べてくれる友人など大勢居るだろうにどうして自分なのか。問えば「親睦を深めようじゃない」の一言。自分は気に入られたのだろうか?三ヶ月付き合った今でもキラという人間の思考はさっぱり読めない。
キラの机に頬杖を付いて、ぼんやりと、しかし真剣に考えながらシンは予鈴が早くなれば良いと思った。そうすれば次は移動教室だから三階にある一年生の教室からレイがシンの分の教科書まで持って迎えに来てくれるはずだから。
解放されない不自由を思ってシンはまた貧乏ゆすりを始めた。それをキラが楽しそうに見ている。良いから早く食べてくださいよ!言いたくてもいえないので変わりにシンは顔を背けた。ソレにもキラは微笑んだままだ。
レイが来たら昼休みはなれていた分思いっきり抱きつこう。自分に対してのご褒美のように誓ったソレが、キラに先を越されることをシンはまだ知らない。
END
キラは傍若無人な寂しがりやがいいです。
そして振り回されるのは周り。
【生贄ランチタイム】
2005.06.20-Copyright (C)Baby Crash