決して過度な装飾がされているわけではないのにそれでもどこか華やかさを感じるのはこの部屋の主の人柄のせいだろうか。それともただ自分の贔屓目か。以前そのことを話した際、人の上に建つためにはそれなりの魅力が必要なのだと冗談のように微笑まれたことをレイは覚えていた。
たしかに彼の部屋が華やかさを増したのは彼が議員に就任した頃からのように思える。以前の彼の部屋には機能的ではあったもののこんな華やかさはなかった。彼が高位の議員になるにつれこの部屋への来客も増えている。本音ばかりでは足元をすくわれてしまう。儀礼的なものが必要なことはわかる。それでもふと昔の、自分だけが知るこの部屋のことを思い何に対してもわからぬ優越感を抱くときがあるのをレイは自覚していた。
幼い頃から、それこそ物心ついたころからそばにいた。だから全てを知っている。彼がしようとしていることも、それで世界がどう動くのかも。それでもそれを止めようとする力も意思もレイは持ち合わせていない。



だらりと手足を伸ばし椅子に座ったまま部屋を見渡してそんなことを思っていた。友人やアカデミー内では決して見せない姿勢は意識してでのことではない。本来上官の部屋であるこの場所でこそ態度を改めなければいけないのだろう、プラント評議会議員の中でも実質的な権威を握っているのは彼だ。現在その地位は他のものに委ねられているが、彼が評議会議長に任命される日も遠くない。
その日が楽しみで仕方ない。それを想像してレイは歓喜に震えた。



闇に包まれていた世界を光で満たしてくれたのは彼だ。それだけで何を疑う理由があるだろうか。だからどこまででもついて行く。離れることなど自分自身が許さない。側を離れるときは自分が死ぬときだ。確信にも似た思いがそこにある。それを言えば彼は悲しく笑うだろう。そんなことを望んでいない。そういわれることは解っていた。
それでも。






思考にとらわれていると横でドアが開く音が聞こえる。空気圧の軽い音と共に異なった硬い靴音が響いてレイは顔を上げた。ゆったりとした足取りで部屋に入ってきた彼は椅子に座るレイを見て笑みを深くする。連絡は取り合っていたものの、実際に会うのは数日振りだった。レイの来室を心から喜び、変わったことはなかったかと聞いてくる彼にレイは苦笑しつつ頷く。反応は予想していたとはいえ嬉しく感じる。しかしそれを十分に味わう余裕は今のレイにはない。



「結果は」



座っていた椅子から立ち上がり、急かすように短く問えば言わんとすることを予測していたのだろう。すぐに返事が返される。



「正式な任命ではないがそれらしいことは仄めかされたよ。恐らく次の議会のときに最終決定される」



言われた言葉一つ一つを自分の中で復唱させて聞き間違い出ないことを確認した。自分が望んでいた結果を伝える返答にレイは無意識のうちに表情を明るくさせる。



「…おめでとう、ございます」
「ついて、くるかい?」



賛辞の言葉に彼は複雑そうに笑う。何を躊躇っているのかと思えばそんなことを今更。自分が考えていた以上の彼の優しさに心が温かくなる。それでも自分が返す返事は変えない。変わらない。



「地獄の果てまで、お供しますよ」



誰がなんと言おうと、たとえそれが彼自身だとしても譲らない。
揶揄でも冗談でもなく、ただ本心からの気持ちを言葉に乗せれば一瞬金の目が驚いたように見開かれ、すぐ満足した様に細められた。



全てを知っていた。その上で利用されようなんて、人は狂っていると言うかもしれない。それでもこれがすべてだったのだ。どうせ永遠になんてありえないのだから、せめて死ぬときまで共に。





差し出された手を受け取る以外の術をレイは知らない。








END




【劣化するリファインド】


2004.11.20-Copyright (C)Baby Crash