たまに訪れる婚約者の家にはいつも緑であふれていた。何も知らないアスランにラクスが丁寧に花を説明してくれる。それを見ながら何よりも彼女自身が花のようだと思った。
ふわふわと風に揺れるピンク色の髪や、いつも浮かべている微笑。周りの空気すら換えてしまうような存在感があるのに決して押し付けがましくはない暖かさ。
温室の中で穏やかに育まれていく花のように外の世界のことなど知らぬままどうか穏やかに。
彼女の指先が庭に咲いている花を撫でた。赤い花びらに白い指が良く映える。なんという花なのだろう。アスランにはわからない。
けれども綺麗だとは思う。
「アスランは花がお好きですか?」
「…ええ」
ラクスは相変わらず微笑んだままにアスランを見ている。ぎこちなく答えれば青い目がまた少し細められた。
そういえばあまり彼女に触れたことはなかったかもしれない。彼女に触れてはいけない気がしていた。
平和を願い、歌う彼女に、多くのものを奪ってきた手で触れるのが怖い。
少しのことで折れてしまうようなそんな脆い人では無いとわかっていたのに。
変化を嫌う自分は、結局歩き出せずに置いていかれてしまう。
わかっていてまだアスランは手を伸ばすことをしなかった。
***
「貴方は何を護りたいのですか」
凛とした彼女の声がステージに響く。久しく聞いていなかったそれ。とても焦がれていたのに今はとても冷たく感じる。
変わってしまったのは彼女だろうか、それとも自分だろうか。
何を護りたい。聞かれるとは思わなかった。
だってそんなことは明らかだったから。
プラントを同胞をなによりも彼女を。
それすら、伝わっていなかったのか。
最後まで彼女に触れられなかった右手が酷くちっぽけなものに見えた。
護りたいものを失ってしまった戦争など何の意味があるのだろうか。アスランにはわからない。
護ろうとしていた花はもう折れてしまった。
あるいは最初からそんなものなかったのかもしれない。
(けれど、大切にしたかった)
気持ちだけが最後に残されて、空回りし続けている。
3:37
END
(こんなもの書いておいてなんですが)
私いまだにアスラクを公式と信じております…。
【13:美しい世界】
2004.10.14-Copyright (C)Baby Crash