落ちていく太陽が最後といわんばかりにその姿を誇示しようとして放った光で世界が赤く染まっていた。
既に秋が終わろうとしている今、夕暮れ時に吹く風は少し冷たい。
普段浴びることの無い日の光を体全体で受け、緑の髪を風に遊ばせている彼に寒くないのか、聞こうとしてやめた。
外に出ようと誘ったのはシャニだ。返事も返さないうちに引っ張って連れてこられた場所は施設の外れ、少し外にはみ出た様にあり自分たちが居る研究施設では見られないような美しい自然が遠くに望むことが出来きる。シャニの不可解な行動を問い詰めようとしていたことを一瞬忘れて感嘆の声を漏らしたほどには、なかなか貴重な場所だった。
見える全てが今赤く染まっていっている。
「きれい」
どこかうっとりとしたような表情でシャニが言う。普段少しの変化も見られない瞳も今は眩しそうに細められている。紫の瞳も赤く染まっていた。
「皆真っ赤で血濡れみたい」
細められていた目は完全に閉じられて今はその色を映していない。何も無い瞼の裏でも赤い色は見えているのだろうか。
ふと自分の足元を見下ろせば見慣れているはずの冷たいコンクリートの地面すら、何か他の生き物のように色づいてみえて気分が悪くなりそうだった。
(そういえば俺たちは他人の血の色すら知らない)
生命の色は本当に赤なのだろうか。こんな自己主張の強い色が自分にも流れているのだろうか。
ふとそんなことを思ったが余り考えたいと思えず、すぐに思考を切り替える。
未だにシャニは動こうとしない。いい加減もどるべきだ。言おうとして顔を上げると、すぐに彼と目が合う。てっきりまだ目を瞑っているかと思ったので少し驚いたがそれを顔に出さずに一言、帰ろう とだけ言った。
一瞬シャニの目が悲しそうに揺れたがそれでも大人しくついてくる。
はぐれそうなので手を繋ぐ。触れた掌は自分のそれと何も変わらずただ暖かい。
赤い世界はもうすぐ終わる。
二人で歩くすぐ後ろに闇が迫っていた。
1:08
END
オルシャニ。
なんとなくシャニは施設内を散歩するのが好きで
他の二人は知らないような場所を知っていそうだと思う。
とりあえずこれはお散歩デートだ。
【09 深淵へ至る道】
2004.11.10-Copyright (C)Baby Crash