「なんでこの施設って窓無いんだろうな」
クロトがバシバシと音がなるほど強く壁を叩く。白い壁には窓が無い。この部屋だけではなく自分たち3人が使う部屋には窓が無かった。クロトは窓のある部屋を見たことがなかった。
自室、待機室、研究室。
どれも箱のような部屋で、その壁に窓は無い。
なんでだろうか。理解できずににもう一度だけ壁を叩いた。
***
シャニは知っていた。
窓はちゃんとあるのだ。窓が無い、特別に造られた部屋はほんの少しだけ。その全てが自分たちの使う部屋。
必要が無いのだ。空調が完備されているこの部屋では空気を入れ替える必要は無く、付属品でしかない自分たちに外の様子を知るための窓は必要ない。シャニはそれでかまわなかった。だからそのことをクロトに教える気もない。
知らないなら知らないほうがいい。一度知ってしまったらきっと我慢が出来なくなる。
「だって逃げ出したくなるでしょ」
外の世界なんて見ちゃったら。
シャニは知っていたしアズラエルはよくわかっていた。
漏れた言葉に気が付かないまま、クロトは壁を叩き続けている。
18:55
END
歪んでいる優しさ。歪んでいるからこそ優しさ。
【03:甘い嘘】
2004.10.15-Copyright (C)Baby Crash