今回の戦闘の被害をまとめた報告書に目を通してイザークは軽くため息を吐いた。目に見える被害はなかったものの隊員の損害が激しい。見知った顔が減りまた事務的に数だけ補充されてゆくのか。自分もその数のひとつだということに気づいてしまったのはいつのことだろう。
生き残らなければならない。死んでしまえば終わってしまう。それは悲しいことだ。
自分の過ごす環境の中で、だんだんと彼を知らない人間が多くなる。ふと思い出すときに話を共有できるものは極わずかにしか残っていない。



ニコルはいたよな。



弱弱しくたずねれば、当たり前だろうとディアッカに言われる。
その声音がなんだか怒っているように聞こえて、彼も自分と同じような気持ちなのかと思い少し安心した。
彼が死んで声を殺して泣いたことは夢ではなかった。泣き声すらあげられない高慢な自分に吐き気がしたことも。変なプライドばかり高い自分はそれに最後まですがってしまう。大声で泣けばよかった。声が彼に届くくらいに大きな声で。ニコルは笑うだろうか。微笑み、ただ黙って側に居てくれる?
思い出すのは優しい彼の笑顔だけ。声は既に思い出すことも難しくて、記憶を更新するようにアカデミー時代のデスクを見る自分に酷い罪悪感を感じるのだ。忘れていくのは罪ではないと知っている。それでもその事を彼らに対する裏切りだと思ってしまう。



(もう疲れた)



モニターの画面の電源を落として目を閉じる。疲れていた目がジンジンと痛んで涙が滲んだ。それは頬を伝うことも無く宙に浮かんでゆく。あの時地球で流した涙は地面に沁みていったのだろうか。彼らにも、届いたのだろうか。






END




【02:存在理由】


2005.09.21-Copyright (C)Baby Crash