「 」、11のお題


その顔、嫌い
/分かったふりが好きだね/一から十まで選ばれた/触りたければ触れば/そういうの気持ち悪い/ずっと同じだった/埋めたがってるのは君だ/それはただのかけらだ/頭ん中見せたい*/別に嘘でもいいんだけど/どこまででもいいから行こう


































01 その顔、嫌い




彼を近くで見るようになって、いろんな顔をする人だということに気が付いた。
笑う顔、嬉しそうな顔、眠そうな顔、怒っている顔


本当にいろいろな表情をする。
…だったら笑ってなさい。




「その顔嫌い」


泣き出しそうに歪められていたキラの頬をフレイの手がつまんだ。
一瞬あっけに取られたような顔をしてすぐ、「痛いよ」と言った彼の顔に、涙の色が残っていなかった。それに心から安心している自分にフレイは気が付いていない。





アンタがそんな顔するから私までムカついてしょうがないわよ。
ばか。




理由の分らない幼い感情だけが胸の中で騒いでいる。







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02 分ったふりが好きだね





03 一から十まで選ばれた




紫色に茶色に薄い肌色。
覗き込めばいろんな表情を見せる瞳。触れば指先から零れていく細い髪の毛。頬に触れば手入れを怠ったことの無いフレイの肌に負けないくらいの手触りで。
造られた色はどこまでも綺麗で完璧。




「まったく気に入らないわ」


心底憤慨したようにフレイが漏らせば、キラはじとりとした視線をよこすだけで何も言わない。すぐにまたパソコンを叩き始めた。彼は先日機嫌の悪いフレイに余計なことを言って打ちのめされたことを覚えているのだ。まったく学習能力まで高い。本来褒めるべきそれすら今はイラつく原因でしかなく、フレイは細められた紫の瞳にすら文句を言いたい気持ちだった。


「茶色に紫なんて何考えてるのよ」
「…それは」
「アンタのことよ」


言い捨てれば「そうですか」とキラは捨てられた犬のように肩を落とす。それを見てフレイの口元に笑みが浮かんだ。すぐに感情が表に出る素直な彼は好きだと思う。




例えば彼の瞳が紫でなかったら。例えば彼の髪が茶色でなかったら。例えばそれが選ばれたものではなかったら。何か変わっていたのだろうか。ベッドに腰掛けたまま足を組みなおしてフレイは考える。


(少なくともこんな状況にはなっていなかったはずよね)


せめてもう少し。
(まあ選ばれなかったものなど知りはしないけれど)






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04 触りたければ触れば




戦艦に備え付けられている簡素で何の飾り気も無い寝台の上で向かい合って座っていた。
脇の頼りない灯りだけ点けたなかでフレイの輪郭が浮かび上がる。
キラは其れを見ていた。見ているだけ。


「触りたいなら触れば?」


吐き捨てるように言ったのはフレイ。
キラは少し戸惑いそれでも手を伸ばした。頬を撫でられ、体温が伝わるのを感じながらフレイは目を閉じた。


もどかしいのよ。


触れてくる手は優しくて、吐き出したいならもっと酷くすればいい。
そうしてくれればフレイだってそうできる。其れなのに。


つめを立てることすら知らない猫のようにキラの手はただ暖かくて、触れた場所には何も残らない。




目を開ければキラが困ったように笑っていて。
フレイはそれが少し気に入らなかったので手を伸ばして彼の頬につめを立てた。








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05 そういうの気持ち悪い























06 ずっと同じだった


一つも知らない君が好き。


きっと君は僕がコーディネータだから自分とは全て一からつくりが違うだなんて決め付けているんだろう。きっと君の目に僕は化け物のように映っている。遠い場所まで見渡せるほど目が良くて、千里先の針の落ちる音だって聞こえてしまい、人の心だって読み取れる!君の頭の中で僕はまがまがしいピンク色をしているんじゃないかと思う。
実際の僕はコーディネーターだけど視力がずば抜けて良いわけでもないし千里先の針の落ちる音どころかミリーとトールの内緒話も聞こえない。勿論人の心だって分るわけじゃないからちゃんと言ってくれないと困る。お腹だって減るし殴られれば痛い。何も君と変わらないと思うんだ。僕は当たり前のように人を愛すし好きな人とはずっと一緒にいたいと思う。上手く行かないことは神様のせいにして忘れるし嬉しいことがあったら一番に君に知らせたい。
ずっと同じだったんだ。同じだったからこそ気がつけなかった。
それはとても悲しい事実。






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07 埋めたがっていたのは君だ




08 それはただのかけらだ





09 頭ん中見せたい




「アンタって中々しぶといわよねぇ…」
心底感心したように呟かれた言葉に思わずキーボードを打ち間違えそうになった。危ない。今打っているのは自分の命を預けて乗るMSのプログラムなんだから打ち間違えたりしたら本当に危ない。戦場のど真ん中で誤作動の嵐なんてさすがの僕でも遠慮したいよ。
先のフレイの言葉はどうにも聞いたらいけないような気もする。そのまま聞かなかったことにして作業を続けたいと思ったけれどそんなことをして彼女の機嫌を損ねるのは僕の本意ではない。覚悟を決めるように一回ゆっくりと瞬きをして彼女に向き合った。


「…うん。どういう意味かな?」
「別に?そのまんまの意味よ?」


出来るだけ見栄えの良いように精一杯の笑顔で挑んだのだけれどそれはあっさり笑顔で返される。彼女の笑顔に弱い。それだけで言葉を続ける気力を根こそぎ持っていかれてしまう。もういいです。肩を落としたらフレイは珍しく楽しそうに笑った。


「わたし、アンタのそういう所、好きよ」


微妙に主語を暈した言葉だったけれどそんなことは最速問題ではなかった。滅多に向けられることの無いフレイからの好意的な感情にキラは驚いてフレイを見つめる。未だその整った顔に薄っすら笑みを浮かべている彼女に色々聞きたい事はあったけれど、今はただ単純にフレイの言葉が嬉しくて自然顔が緩んだ。今度こそ、ご機嫌取りの笑顔じゃなくてそのまま褒められた子供のような純粋な笑顔を浮かべているとまたフレイが尊大そうに足を組みなおした。機嫌がいいらしい様子にほっとする。彼女の笑顔が何よりも好きだ。だから今日もキラはその先の言葉を飲み込む。いつか伝えられるように。そして出来ることならそれを聞いて彼女が微笑んでくれるように。
願いは頭の中でだけ伝えた。


(僕は君の全部が好きだよ)







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10 別に嘘でもいいんだけど




本当に嘘みたいだった。っていうと言葉として変かもしれないけど、そう言うしかない。嘘みたいだった。向けられた言葉も安らぎの表情も触れた掌の温かさも名前を呼ぶ声音の優しさも。全て嘘じゃなければ夢のよう。心が満たされていた。酷い状況でこの上なく悪い始まり方だったけれども、お互いが自分なりに一生懸命で幸福だった。箱庭のような狭い世界しか知らずに終わってしまったけれども十分だったよ。僕は君に何もしてあげられなかったけれど。(幸せだった?なんて聞いたらきっと君は怒るね)
本当は少しでも長く一緒に居たかったから、死ぬことがソレまでよりずっとずっと怖く思えるようになっていたんだけど。僕は君が喜んでくれることなんてそれくらいしか知らなかったんだ。今思うとなんて幼かったんだろう。美しいことなんて一つも無くて周りから見たら顔を顰めるほど可笑しかっただろうに。
僕たちは随分と気持ちの伝え方を間違えて遠回りをしたけど。決して辛いものではなかったから。全てが僕一人の思い出になってしまうというのだったら、いっそのこと全てが嘘だっていいんだけれど。

君が最後に涙を浮かべて頷いてくれたの、本当に嬉しかったんだよ。






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11 どこまででもいいから行こう







こちらからお題をお借りしています
【「」、11のお題】


2004.10.15-Copyright (C)Baby Crash