何も知らない子供のころからまるで何かの呪いのように「お前は大きくなったら素敵な恋をしなさい」と繰り返し言われてきた。そのときの彼の瞳が何時もどこか悲しそうに揺らぐものだからそれを打ち消したい一心で言葉に頷いてきたが正直なところ彼の言う「素敵な恋」というものが自分には分からない。言った本人に聞いても「基準は人それぞれだからね」と穏やかにかわされた。ホーク姉妹に尋ねれば嬉々とした表情で大量の少女漫画を渡されて途方にくれる。善意を付き返すわけにもいかず抱えて部屋に持ち帰れば同室のシンが驚いて駆け寄ってきた。簡単に経緯を説明すると複雑そうな顔をしながらも抱えていた少女漫画を半分持ってくれる。その動きが慣れているように見えたので「お前は紳士だな」言えばシンは信じられないことを聞いたとでもいうように眼を見開いた後、不意に目を逸らした。「…レイにだけだよ」「?、シン、それはどういう…?」意味を図りかねて聞き返そうとしたけれどそれから逃れるようにシンは先に歩き出してしまう。すれ違ったときに見えた頬が赤かった気がする。何か可笑しなことを言っただろうか?




***




「レイはどんなことが素敵だと思うの?」
「分からない。そういう事は今まで考えたことが無かったから」


渡された本を全て読んでも答えにたどり着けず、途方にくれていると見かねたシンが声を掛けてくれた。「焦らないで、大丈夫一緒に考えよう?」手を煩わせて悪いと思うがこういう彼の優しさをとても好ましく思う。「ありがとう」何の含みもなく心から感謝の言葉を告げられた。その言葉にシンが照れたように笑うのも嬉しく思う。お互いの間に流れる空気が心地いい。穏やかな気持ちで満たされて気付いた。彼が言っていたのはこういうものか。ようやく分かった。
二人の手はいつの間にか繋がれている。







END




【02:恋をしたいな】


2005.07.04-Copyright (C)Baby Crash