帰り道を軽く走るような足取りで進んでいた。周囲は既に暗く明かりは西の空に少しの朱を残すだけになっている。
先週から学校が冬時間に切り替わり部活の時間が少なくなったのが気に入らない。今日も日が落ちたのは部活中だった。終了時間を少しばかり早めても帰る頃には結局暗くなっているのだからもう少しくらい部活をやらせてくれてもいいと思う。そう思っていても自分みたいな一生徒の意見で学校の決まりが簡単に変わらないことはよく解っていたので特に教師に文句を言うつもりもなかった。こういう所はシャニの流されるままの無気力さを見習ってもいいかと思う。
はぁ、と吐いた息は白かった。闇にまぎれていく白い息を追って空を仰げば視界にそれまで気がつかなかった星空が見えて少し感動した。星座と思われる星の固まりがいくつか見られたけれど名前までは判らない。理科の教科書に有名なものがいくつか載っていた気がするけれど生憎学校に置きっ放しだ。そんなわけで名前を知るのを早々に諦めそのまま暫く星を眺めていた。
「なにやってんの」
急にかけられた言葉に驚いて視点をずらせばポケットに両手を突っ込んでシャニが気だるそうに立っている。寒い日にこうして歩くのは彼の癖でそれを見るたびに僕は後ろからそっと突き飛ばしたい衝動に駆られることが何度もあった。(きっと顔から転ぶはずだ)
「星、見てんの」
「ふーん」
「ちょっと待った」
それだけ言うと興味がないといった様子でさっさと歩き出したシャニを巻いていたマフラーを掴んで引き止めた。マフラーが二人の間にピンと張られる。首を絞められる形になったシャニは「ぐっ」と嫌な声を出して足を止めた。
「…何がしたいの」
「一緒に帰ろうよ」
マフラーを掴んだまま腕を上下させると動きに合わせてシャニの頭も上下に揺れた。
だいたい同じ家に帰るのに人を置いていく根性が理解できない。一人で帰るより二人で帰ったほうが楽しいに決まっているのに。
暫くそうしていると「わかったから放して」と常と変わらない声が聞こえたので満足して笑った。
二人で歩き出してすぐにシャニが横で何かを思い出したような声を出した。何かと思って見ればシャニは手元に提げていた小さなビニール袋を漁っている。袋には学校の近くにあるコンビニの名前が赤い文字でプリントされていてそれでシャニの帰りがこんなに遅い理由がわかった。(シャニは部活をしていない)
「あげる」
言葉と一緒に渡されたそれは肉まんだった。渡された後に、餡まんが良い?とシャニが首をかしげて聞く。それに僕が首を振るのを見るとシャニはさっさと歩き出してしまった。
シャニが人にものをあげるのは珍しいことだった。それが食べ物なら尚更だ。ついこの前だって冷蔵庫に入っていたプリンを食べてしまい、首を絞められたばかりだった。
もらった肉まんが寒さで痺れていた指先を暖める。仮にも一緒に帰っている人間が立ち止まっているというのにまったく待つそぶりを見せず歩き出したシャニを追いかけた。シャニは普段だらだらとしているくせに歩くのが他の人よりずっと早い。小走りでなんとか追いついて後ろに流されていたマフラーをもう一度引っ張る。迷惑そうに振り向いた顔が、「ありがとう」を聞いて少し優しくなったのは暗闇でもはっきりとわかった。
17:13
END
クロトはピザまんがすきそう。シャニは餡まん。オルガが肉まん。
シャニが遅くなったのは補習(寂しいアズラエル先生の話し
相手)と買い食いのせいです。
【ロマンチシズム帰り道】
2004.11.24-Copyright (C)Baby Crash