すい、っと極自然に手を差し出した後でその掌を向けられた相手が戸惑ったような表情をして不審の色を滲ませていることに気づく。それに、どうやら自分の動作が何か間違っていたらしい、と朧げながらも己の間違いに気づき、握り返されることのなかった掌を悪戯にニ、三度握っては開くことを繰り返した。己の手を呆けたように見つめる幼馴染に彼も毒気を抜かれたのか、先の表情を消して代わりに柔らかい笑みを向けてくれる。




「どうしたんだ?」
「…うん、どうしたんだろう」




先ほどの行動を問われてのことだとは解ったがそれでも答えを返すことは出来なかった。正直なところ自分でもどうしてだかわからない。生徒会室、何時ものメンバーで堪った雑務をこなしていてスザクとルルーシュが二人で職員室まで出向くことになった。二人で席を立ち、それでスザクはルルーシュに掌を差し出した。エスコート?そういえばそうかもしれない。男が男の手を引くなんて滑稽にも程があるがそれでも体が勝手に動いた。俺は彼の手を引かなくてはいけない。




「ああ、小さいころの癖かな」




浮かんだ感情を言葉で表して初めてその輪郭を掴んだ。継げた言葉に幼馴染は思い当たったのか少し苦い顔をした。それにスザクは苦笑する。幼いころ、彼が日本に人質として囚われていたころ。スザクは外に出るとき常に彼の手を引いた。そして絶対に背中から出さなかった。好奇の目、侮蔑の視線、理由なき敵愾心。それらは幼いスザクにもはっきりと解ったし、そしてそんなものより何よりも恐ろしいのが己の父の濁った暗い視線だった。護らなくては、と思ったのは必然だったろう。俺が護らなければきっと簡単に奪われてしまう害されてしまう。兄妹の幸せ、兄の優しさも、妹の笑顔も、俺の友達が。だから手を硬く繋いで離さなかった。ルルーシュもそれをよく解っていて握り返された手はきつく絡んで繋がっていた。それが唯一で全てだった。掴んだ細い腕と脆い指だけが失われなければ良いと。


その強い思いは離れ再会した今でも途切れることはなかったらしい。自分の体は確りと彼に手を差し出した。そのことに満足していると脇の友人が「小さいころの癖ぇ?」と訝しげな声を上げた。その音は明らかな揶揄を含んでいて暗に癖になるほど手を繋いでいたことをからかっていたがスザクは笑みを崩さなかった。お前など何も知らぬくせに。心には相手をあざける気持ちが確かにある。あの時、触れ合っていた指先がどれだけ尊いものだったか、奇跡だったのか、何も知らぬくせに。そんなものの言葉では何も穢されなどしない。


周りの友人たちが詳しい話を聞きたそうな顔をしていたがそれを無視してスザクは再び幼馴染に微笑みかける。再び、今度は己の意思を持って差し出した掌に数年前と変わらぬ彼の細い指が触れた。






















スケープゴートを
エスケープ・エスコート