一番星!と隣のスザクが声を上げたのに釣られてルルーシュも顔を上げる。夕暮れから薄闇が広がり始めている空を指している先追うと確に輝きを持つものがあった。最後のオレンジと闇の始まりの境目の場所で存在を主張するそれをルルーシュは不思議な物を見るような気持で見つめていた。




「一番星…?」




呟いたルルーシュの言葉を拾いスザクが「まさか見たこと無いとか言わないよな」と少し意地悪く笑う。それにムッとしたルルーシュだったが反論はしない。事実だからだ。ぐっ、と詰まるように言葉を飲み込んだルルーシュにスザクは少し拍子抜けした様な顔をしたが直ぐに大袈裟に溜め息を吐いて見せた。両手をわざとらしく挙げやれやれと首を振る。芝居がかったその仕草に馬鹿にされているとは思ったが怒鳴るのはどうにか堪えた。だって本当なんだから仕方ないじゃないか。少し前まで自分がいた離宮ではこんなに暗くなるまで外にいた記憶は無い。いつも日が暮れるよりも早く母に呼ばれ妹と共に暖かい部屋に帰った。こんな風に同い年の友人と暗くなるまで遊び回るなんて初めてのことだ。
ぼそぼそと文句を口にする。まるでスザクに言い訳しているようなそれに情けない嫌な気持ちになったが聞いたスザクは呆れ顔を直ぐに崩し上機嫌に笑う。




「初めて?」
「初めてだよ…悪かったな」
「そっか初めてか!お前友達いなかったんだもんな!」
「…っ!それは君もだろう!」




彼はルルーシュの、初めて、という事をとても喜ぶ。君が初めての友達なんだ、と打ち明けたときの彼の嬉しさを隠し切れずに緩んだ口許とキラキラとした翡翠にルルーシュの方が恥ずかしくなってしまった。何でもない風を上手に装い切れない彼の子供らしさを可愛いとも思った。
今もスザクの直接的な物言いに少しムッとしたもののその悪意のない笑顔を見たら忘れてしまう。彼には多少言葉を選ばない所がある。婉曲という手段を知らないように思った事をそのまま音にしてしまうのだ。自分の兄弟も母も皆言葉の穏やかさを楽しむ人だったから最初はそれに戸惑った。スザクが真っ直ぐに投げてくる感情を上手に受け止めることができずによく喧嘩にもなった。けれど長く側に要るとそれが逆に心地好く感じるようになっている事にルルーシュは気付く。彼のそれは磨がれた刃の様に凛としてそこにありいつもルルーシュに真摯に届いた。王宮に集う貴族の飾り立てられた美しいだけの言葉とは違いそれはまるで彼の心の深い場所に触れる様に響く。それに気付いてからルルーシュはスザクがくれる言葉を楽しみになった。彼の知る言葉の色がとても好きだ。キラキラとした光のように輝いてルルーシュの心に残るそれはたった今見つけた空の星に似ている。こんなに綺麗なものがあるなんて知らなかった。夕暮れの星も、見上げるほどの大木も、あの離宮に居ては知りえなかった世界の欠片だ。母を奪われ世界を憎んだ。父を呪って自分を殺した。けれどもうとっくに溢れたと思った物がここにはあった。スザクがそれを教えてくれる。この世界でなら生きて行けるかもしれない。あの星の様に輝けなくてもきっとスザクは僕たちを。




「ほら、もう帰るぞ。直ぐにここも暗くなる」




そっけない口調とは裏腹に差し出されたスザクの掌に自分の掌を絡める。まだ空を気にするルルーシュの腕をスザクが引いて歩き出した。そんなに気に入ったのか、不思議そうに尋ねるスザクにルルーシュは笑って見せた。それはきっと彼が一生知ることのないだろう感情が溶けて混ざった色だったろう。後ろにはもう闇が迫っているのだ。ルルーシュは繋がれた掌に力を込めた。




(この掌は、スザクは、スザクが、)




自分にとって離してしまっては生きられない、きっと光のような物になる。
















キラキラ