「贅沢なんていわない!ただ傍に居たいだけなのに!」
シャーリーの恋を語る瞳は真剣そのもので、夢中になるあまり声は大きく迷惑なものだったがカレンは思わず大きく頷いてしまった。そう、そうなのよ!握り占めた掌は力が入りすぎて白くなっている。
少し前の自分だったら曖昧に微笑んで内心でシャーリーの勢いに引いていただろうけれども今は事情が違う。認められたい人が居るのだ。それが恋だなんて彼に申し訳なくてとても言えないけれど、心の中でだけはその感情に身を任せていることを許して欲しかった。ゼロ、素性どころか顔さえ明かさない、私たちの君主。
初めはカレンも彼を信用などしていなかった。顔も見せないで何が仲間だ。そう内心で彼を罵っていたことも事実。けれども彼には作戦を立てる手腕とそれを見事に実行できる力があった。そしてなにより行動を共にすればするほど彼に心酔させられるカリスマ性。いつの間にか彼を疑うことが許されないことのように思い、彼へ無条件で膝を折り忠誠を誓いたくなる。そして、認められたい。そう願い始めたのはごく自然なことだったように思う。
彼に認められたい、できることなら自分が彼を支えたい。ゼロが一人、組織全ての責任を負っていることをカレンは申し訳なく思う。いくら彼が優秀であろうと自分たちと同じつくりの人間であることには代わりが無いのに皆それを忘れてしまったかのように全てゼロへ押し付ける。
一度それを彼に言った事があった、自分にも何かできることはないか。カレンの精一杯だったそれを彼は常と変わらぬ声音で拒絶したのだが。
「こちらは大丈夫だ。それよりもお前はナイトメアの整備を気を配れ」
それは彼なりの気遣いだったのかもしれない。人には適材適所というものがある。(実際カレンは事務作業がキライだ。生徒会の資料作りなんて頭痛すら覚える)そう思っても好意を拒絶された情けなさと恥ずかしさ、悔しい気持ちで顔が上げられなかった。せめて彼の表情が分かればもっと好意的に解釈することもできたかもしれないのに。そのときの感情はカレンの心に痣のように残り思い出すたびに消えてしまいたくなる記憶となった。
(けれど、今は)
今は違う。紅蓮弐式を与えられたのは彼に信頼されている証だ。彼は言った「戦う理由がある」その通りだ。母親と兄。けれど彼はその中に自分自身が含まれていることを知っているのだろうか。(いいえ、彼は知らなくて良い)ただ傍に居ることを許して欲しい。
「ねえ、カレン…」
そこでカレンはようやくシャーリーが訝しげな視線を送っていることに気づく。ああ嫌な予感がする。
「ルルーシュ「は、関係ないわ。まったく。これっぽっちも」
先手必勝とばかりに言葉をかぶせてやればさすがのシャーリーも納得したらしくそれ以上は何も言わなかった。シャーリーには悪いがカレンはルルーシュにあまり良い感情を抱いていない。それどころか一時でも彼とゼロを同一人物ではないかと疑った自分が恥ずかしいとさえ考えている。
どうしてそんな話になったのかは忘れてしまったが、そのことをゼロに話したことがあった。カレンがルルーシュのことを、カッコつけてて腹が立つ。クールぶってるくせに妹にべったり!の同級生、むかつくんです。と言ったとたんゼロがギクリと固まってしまったけれど。(なんだったのか今でも分からない)
そのときのゼロの様子を思い出してカレンはまた心配になる。彼は疲れていたんだわ。やっぱり一人で抱え込みすぎているんだ。大変なんだ。
「傍に居るだけじゃだめよ…」
「え?」
「支えて上げられなきゃ傍に居る意味が無いわ…!」
カレン…!と今度はシャーリーが尊敬のまなざしで見つめてくる。それに微笑で応えて硬く手を握り合った。頑張りましょうねシャーリー、(私貴方の想い人は正直好きになれないけれど!)