薄暗い洞窟。彼の伏せられた瞳に闇色の髪が流れるようにしてかかり隠されてしまった紫紺を残念に想いながらCCはただ言葉を待った。瞳は気まずげにそらされ顔は心なしかが赤く、弁の立つ口は言葉を選ぶ迷うように閉じられている。彼はこんな表情をするような人間だっただろうか。ふと考えて感じる違和感はその表情が自分に対して向けられているからだとすぐに気づく。そうだ、自分がもし彼の友人ならば何の違和感もなく当たり前として受け入れていたのだろう表情。何度も遠くから眺めていただけの。
そんな些細なことにすら寂しさのようなものを感じる己を自嘲する。
そうだ彼は今まで自分に対してとても冷静で無関心であった。偶に彼を怒らせ口論となった時に感情的に叫ぶことは幾らかあったが、少なくとも彼の友人や妹のように表情を崩し柔らかな感情を向けることなどは今まで一度としてなかった。
しかしその彼が、いま自分に対して初めてとも言える怒り以外の感情を向けている。これは一体どういう夢だろう。自分の考えが辿り着いた答えが信じられずに絶句する。だって彼は私を疎んじていた。それなのにそれなのに。まさか。


「感謝する」


照れているのか幾らかぶっきら棒に言われたその言葉に目を見開く。そんな、たった一言にここまで喜んでしまうなんて、我ながらどうかしている。それでも胸に感じる暖かな感情を偽ることはできずに微笑めば、彼もまた困ったような笑顔を向けてくれる。たったそれだけのことでこんなにも幸福な気持ちになれるなんて、自分はどこまで愚かになってしまったのだろう。(だって彼のそれがまるで妹に向けるような)(いま死んでも良いだなんて、そんな)













ありえない話