「お前は本当に馬鹿だ!」
「…ごめん」


気をつけて帰ってね、また来て頂戴ね。まるで息子の友達を見送るときのような言葉をかけられて軍の施設を出るまでは、どうにか笑顔を保てていたが二人きりになってしまってからはルルーシュは不機嫌を隠しもしない。寧ろ全開でスザクに対して険のある言葉を投げて居る。それをスザクが甘んじて受けているのはその言葉があんな行動に出たスザクの立場を心配して出ているのがわかっているからだ。それでもスザクに先の行動に対する後悔は欠片もない。もしこれから先同じようなことがあってもスザクは必ずルルーシュを守るだろう。
そんな思いを知ってか知らずか、隣を歩く幼馴染はイライラとした様子で次の言葉を捜している。


「俺は小さな子供じゃないんだ」
「わかってるよ、ルル。でも、さっきの君はまるで昔に戻ってしまったみたいだった」


昔、それが七年前を指す事に彼は気づいたのだろう、けれどそれが何を意味しているのかまでは分からなかったらしく訝しげな視線でスザクの言葉の続きを促す。


「あの笑い方、僕あまり好きじゃなくて。君が手の届かない場所に帰っちゃうみたいな感じがして凄く、嫌なんだ」


独白のような言葉はそれでも彼に届いて確りと気持ちを繋いでくれたらしい。まさかスザクがそんなことを言うとは思っていなかったルルーシュはその言葉にどういう感情で返すのが一番良いのか決めかねているようで唸っている。その姿が可愛らしくてスザクは少し気持ちが和らいだのを感じた。この感情はとても素直なものでルルーシュの様子に簡単に左右されてしまう。それを不快と感じるどころか共鳴するような気持ちを心から喜んでいる自分はどこかおかしいのだろうか?


「そんなわけないだろ」
「でも、その前にも凄く怯えるような顔をしていた」
「……あれはちょっとしたトラウマが蘇りかけたんだ」
「え?」
「いい!それはもういいから!」


今とても聞き流せない単語があったんだけど。トラウマって一体なんだ。ルルーシュにそんなものがあるだなんて知らなかった。かなり詳しく話を聞きたいと思ったけれど当のルルーシュはその話題を持ち出すだけで辛いらしく、必死で平静を保とうとしているのがわかってしまい触れるのは止めた。そのかわりに。


「大丈夫、僕が守るよ」


ロイドに触れさせることを決して許さなかったルルーシュの掌に体温を分け与えるように自分のそれを絡めてスザクは安心させるように微笑んだ。


「…お前はまたそういうことを言う」


そう言ったルルーシュの表情は心底呆れた様子だったけれどその声に険はなく、むしろ喜色すら感じられてスザクは益々笑みを深くする。(君のそういうところ、僕は大好きだ)
日も落ちかけた帰り道、辺りを包み始めた闇にまぎれてこのまま手を繋いで歩いていても良いだろうか。自分から離す気などさらさらないくせにそんなことを考えてもう一度彼の指を包む力を強くする。
それは拒絶されることは無く暫く手を繋いだまま歩き続ける、二人とも黙ったままだったけれど不思議と空気は重くない。お互いがお互いの考えてることを把握できる安心感と言うのだろうか。繋がった手から気持ちが流れ込んで行くようだ。


「正直軍なんてどんなところかと思ってたけど、」


そのまま学校内に入りクラブハウスが見えてきたころ、ルルーシュがおもむろに口を開いた。その言葉に先までの話題との脈絡はなく、少し不機嫌そうな声音は独り言のように吐き出される。ルルーシュはスザクが聞いていなくても構わないらしく前を向いたままだ。それでもスザクは聞いている、と伝える意味を込めて声は出さずに頷く。スザクは只純粋にルルーシュが自分の所属する軍という場所をどう思ったのか知りたかった。けれども、


「お前の居場所が暖かくて…よかった」


ルルーシュの言葉はただスザクの所属する特派の人間二人に対しての感情だった。よかった、最後に零れるようにして音になったその言葉と一緒にルルーシュがふわりと表情を崩して笑う。それが可愛らしくて、嬉しくて、本当に堪らなかった。
(君は僕を喜ばすのが上手すぎる)
顔が赤くなるのは多分ごまかしきれて居なかっただろう。ルルーシュの悪戯っぽい笑顔が夕闇の中で見えた気がした。










僕 の 
×× を 
彼女!
 紹 介 し ま す