「ああっ!き、気を着けてね?!熱いからね!?」
「うるさいぞスザク!!」
だいたい紅茶を入れるくらいで何の騒ぎなんだ!隣で一人慌てる幼馴染を一括してやれば彼は目に見えて方を落とした。まるで犬だ。ていうか犬だ。耳はぺたりと下を向き、尾も力なく垂れ下がる。そんなイメージが何の違和感もなく当てはまる17歳男子ってどうなんだ。
ちょっとげんなりしながらも先の言葉を取り消すつもりはない。こいつは間違いなくうるさかった。いくら箱入りの皇子だったからといってもそれはだいぶ前の話なんだから紅茶の一杯ぐらい一人で淹れられる!それを横で、心配です。何も出来ないと思ってます。と隠しもしないような態度で心配されては気分も悪くなるというものだ。
無事淹れ終えた紅茶を、どうだ見ろと押し付けるようにスザクに渡す。最後の最後まで不安そうな顔を隠さなかったスザクもポットから手を離すのを見届けてようやくホッとした顔になる。だからお前は…。もういい。文句の替わりにため息一つ。
「お前は過保護すぎる」
「だって君、たまにとんでもなく無防備で突拍子もないことをするじゃないか」
何を言ってるの?と言わんばかりの表情で返された言葉に「こっちが何言ってるの?」だ馬鹿!機嫌はどんどん下降してゆく。せっかく休みを一緒に居られるのに何をしてるんだ勿体無い。
それでもスザクはお構いなしに言葉の先を言う。「見ててひやひやするんだ」
「ルルーシュは何もしなくても良いよ、全部僕がやってあげる」
「お前は俺を駄目人間にしたいのか」
「うん、それも良いかも。僕が居なきゃ何も出来ないルルーシュ、」
それって、素敵だよね。
うっとり微笑まれても、困る。同意を求められても、困る。お前俺をどうしたいんだ。聞くのも怖い。
「……性格が悪くなったな」
「そう?前からだよ」
ようやく返せた精一杯の憎まれ口すらあっさり飲み込まれてしまう。それどころか手までがっちり握られて笑顔で「もっと教えてあげようか?」と来たもんだ。その笑顔にさっきまでの忠犬の面影は欠片もない。
「俺の可愛かったスザクを返せ…」
「うんごめんね?」
なにがごめんね、だ!その謝罪に誠意は感じられない。(訂正する。)俺は心の中で呟く。気づくのが遅すぎた。(スザクは大人しくなんてなっていなかった)こんなの大人しいなんて到底呼べる態度じゃない。そうだスザクは大人しくなんてなっていない。ただ単純に己の意見を笑顔で穏やかに聞こえるようにゴリ押しする方法を身に着けただけなのだ。
(なんて性質の悪い…っ)
音になるはずだったその抗議はそれよりも早く動いたスザクが塞いでしまって聞こえない。年月は人を変える。それに気づけなかった自分に勝機はなかった。ちくしょう。せめてもの仕返し、と胸倉を掴んで離れようとした唇を捕まえればスザクの嬉しそうに笑う顔がみえた。
(ホント、犬)
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